unreal arimura you - 非実在有村悠 -

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高嶋ひろみ「あさがおと加瀬さん。」は、ダダ甘の学園百合マンガ

あさがおと加瀬さん。 (ひらり、コミックス)

あさがおと加瀬さん。 (ひらり、コミックス)

主人公の山田は毎朝あさがおの世話をしている、“ドジでノロマなカメ”系の緑化委員。ある朝、花壇の前で隣のクラスのボーイッシュな陸上部員・加瀬と出会う。自分も朝練のあと時々水をやっていたという加瀬は、いきなり頭から水をかぶって「スゲーきもちいー 山田もすれば?」と笑いかける。

そこでキュン(死語)となってしまった山田は、加瀬のことが気になって仕方なくなり、彼女が自分のことを好きであってくれればいいのにと悶々。すると、夏休みも花壇の前で山田と会いたいと加瀬が言いだし、あとはひたすらいちゃラブ状態である。

最終的にはマラソン大会後、保健室での加瀬からの告白でこの巻は幕を閉じるのだが、そこへ至るまでの過程が実にピュアかつもどかしくて、読んでいるこっちが赤面しそうな勢い。元々女の子好きな加瀬は、天然で隙だらけな山田が袖をまくって白い肌アピールをしてくるのにドギマギしたり、マラソン大会用に選んであげた運動靴を、短いスカートのまま履きはじめる山田のパンツが見えそうでやっぱりドギマギしたり。

いっぽう山田も山田で、加瀬の大きな胸に目を奪われたり、加瀬の自転車の後ろに乗って帰ることになり、彼女の腰に腕を廻してドギマギしたり、運動靴選びの帰りに電車で同じつり革に手をかけてドギマギしたりと、もうほんっとに2人ともどピュア(女の子でも、同性のセックスアピールには胸が高鳴るものなのだろうか)。さすが、掲載誌『ひらり、』のキャッチコピーが「ピュア百合」なだけのことはある。

ちなみに本書は、新レーベル「ひらり、コミックス」創刊ラインナップのひとつ。個人的には、ドロドロしがちな『百合姫』掲載作品よりもこういうほんわか系のほうが好きだ。百合、万歳。とはいえ、実は言うほど百合作品に触れてきたわけではないのだけれど。

それにしても、繰り返しになるが山田も加瀬も本当にかわいくて、一途だ。絵的にかわいいのはもちろんだが、なんだろうな、年のせいか、我が子――とまではいかなくとも、年の離れた妹を見守るような気分にさせられる。加瀬の一挙一動に憧れる山田。一見男前なサバサバ系だけれど、わりと乙女な加瀬。山田は陸上部エースの加瀬をすごい、すごいと褒めそやし、どんくさい自分とは大違いだというのだが、加瀬は加瀬でずっと前から山田のことを見ていて、あさがおの世話なんて誰にでもできることではない、すごいと褒め称える。こういう、お互いに自分にないものを見出して憧憬の念を抱く描写は、ボーイ・ミーツ・ガールものにも通じるテンプレで、なるほどガール・ミーツ・ガールにもそのまま応用できるのだなと感じ入った。

絵といえば、『百合姫』系の端正で女性的な絵柄とは違って、時に大げさなくらい表情を崩す勢いのある絵が特徴的。ともすれば少年マンガ的と言えるかもしれない。ボーイッシュな加瀬を表現するにはもってこいだ。続きは今も『ひらり、』で連載中なので、続刊を気長に待ちたい。