埋もれた傑作ライトノベル『ハロー、ジーニアス』(優木カズヒロ/電撃文庫)
![ハロー、ジーニアス (電撃文庫 ゆ 3-1) ハロー、ジーニアス (電撃文庫 ゆ 3-1)](http://ecx.images-amazon.com/images/I/51sVDKQLqkL._SL160_.jpg)
- 作者: 優木カズヒロ,ナイロン
- 出版社/メーカー: アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2010/10
- メディア: 文庫
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世の中、「何故こんなにすばらしい作品がウケないんだ!?」と怒りにうち震えるようなコンテンツがひとつやふたつ、あるものだ。ぼくにとってそのひとつがこれである。
舞台は少子化の進んだ2019年。数ある学校はいくつかの巨大学園に統合され、さまざまな能力開発が行われている。まあ『蓬莱学園』シリーズのミニチュア版といったところか。そこに入学してきた竹原高行は、陸上部期待の星と目されながら、事故で足をやられてしまった。最先端の医療を受けるなら完治するが、その代わり二度とハイジャンプはできない身体になるという。そんな感じで、もう学校を辞めようかとかなりくさっている。
その彼を唐突に「第二科学部」なる怪しげな部活動に勧誘してきたのが、“ジーニアス”――数年前から現れはじめた特異な才能を持つ少年少女のひとり、海竜王寺八葉である。彼を研究対象としたいというのだが、どうやらある種の一目ぼれだったらしい。八葉や水泳部の美月、陸上部キャプテンの清彦たちに囲まれて、高行の灰色だったスクールライフはしだいに、色鮮やかに彩られていく。
いや、本当にこの「学園生活」の描写が上手いのである。キャラがそれぞれ立っており、個別に人生の指針のようなものを持っていて、(タブーワードかもしれないが)生活感がある。引きずってきた夢にケリをつける高行。高行への好意をもう隠さないと決めた、八葉と美月。そんな彼らが一丸となって、部室棟取り壊しに立ち向かうさまは、さながら『ぼくらの七日間戦争』を髣髴とさせるようで胸が熱くなった。
シリーズは残念ながら、3巻で打ち切りになってしまったようだ。明らかに、いろいろ詰め込みすぎた、あるいはばっさりとエピソードを削った形跡が見られる。八葉の抱えていた病を治すかわりに渡仏させるという“ジーニアス”の青年・クリストファーが現れ、物語は大きな転換点を迎えるのだが……これもまたあっさりと解決してしまう。そこをこの作者は高い筆力で読ませる。本当に上手い。
惜しむらくは、その筆力の高さがおそらく、現在の電撃文庫の読者が求める方向性に合致していなかったことだろう。むしろ、小説に関してある程度のリテラシーを持った20代以上の読者にこそウケる作品だ。これがメディアワークス文庫から出ていれば、また話は違ったかもしれない。が、今更それを嘆いてもしかたがない。無数のありえた可能性を想像しつつ、時折心の底にしまっておいた箱をそっと開いて愛でる、そんなことしか我々読者にはできないのだ。
(有村悠)
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