unreal arimura you - 非実在有村悠 -

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脱力日常系SFコメディ『NieA_7(安倍吉俊・gK/カドカワコミックス・エース・エクストラ)コミック版を今こそ読み返したい

NieA_7 Recycle (カドカワコミックス・エース)

NieA_7 Recycle (カドカワコミックス・エース)

 99年(もう14年も前か!)夏に放映されたアニメのコミカライズである。コミカライズというより、同時進行していたメディアミックスと考えたほうがいいかもしれない。ストーリーの内容もキャラの性格づけも描き方すらも、まったく違うからだ。ここでは先日1冊にまとめて復刊されたほうを取り上げてみたい。

 舞台は人間と宇宙人が混じりあって暮らしている、近未来の夏。大学浪人中のまゆ子は、古い情緒の残る荏の花町の銭湯に間借りして貧乏生活をどうにかサバイバルしている。そんな彼女の部屋にいつの間にか住み着いていたのが、アンテナを持たない最下層(_7)宇宙人の女の子・ニア。いつもガラクタを部屋に持ち込んだり、UFOを作って部屋を爆発させたりとはた迷惑なことばかりやってくれるが、不思議とまゆ子や荏の花の生活に溶け込んでい。

 基本的にはアニメ以上にどたばたコメディ色が強く、異様なハイテンションで話が進む。ストーリーの深層には貧困問題や人種差別問題などシリアスなテーマが横たわっているのだが、そんなものはほとんど微塵も感じさせない。

 インド文化に染まった宇宙人・チャダが怪しげなコンビニエンスストア(なお、営業時間はPM7~AM11)を経営しており、やたら安いパスタの麺を買って産地をよく見てみると、ちょうどそのころインドが核実験を行った場所だったり、新作カレーの試食会で「長老」が何度も屁をこき、そこへ荏の花出身の有名人・ジェロニモ本郷が訪れたとたん大爆発を起こしたり、やりたい放題である。同様に、中国文化にかぶれた少女・カーナはニアのケンカ友達だったり、まゆ子の幼なじみ・源蔵にほのかな恋心を抱いたりと、個性的な人間や宇宙人ばかりが登場する。要はほぼ全員が貧乏なのだが、それでもたくましく生きているのだ。

 エピソード終盤、秋になる直前の台風の夜に、海上に浮かんでいた宇宙船が突如として消滅する。そのときニアがはじめて異星の言葉を発するのだが、その意味はわからないままだった。また、その直前にニアが失踪するエピソードもあり、そのあたりはややウェットな作風になっている(アニメではさらに寂寥感をフィーチャーしていたが)。夏から秋へ――なんらかの大きな変化が訪れる予兆に満ちたまま、物語は終わりを迎える。

 また、巻末には「激枯れ!! 糞対談」と題して、安倍氏と原案「gK」の「K」のほう――名づけて糞先生との、漫才のような対談が掲載されていた。安倍 氏のウェブサイトにも載っているコレが好きで、ぼくはしょっちゅう読み返していた。3年前安倍氏にインタビュー取材したとき、糞先生は架空の人物で、周囲 の糞野郎の発言の集大成であると語っていた。いったいどういう交友関係なのか、気になってしかたがない。

 なお画材にも、このマンガの一端が表れている。安倍氏本人の言によれば「そこら辺に転がってたボールペンだったり、鉛筆一発描きだったり」らしい。人体の形がどうかしていようが気にせずぶっ飛ばして描く豪快なマンガだ(ちなみに、安倍氏は芸大で日本画院卒)。

 それにしても、『serial experiments lain』『灰羽連盟』という2大傑作のあいだにこういう肩の力を抜いた安倍作品が作られているのは興味深い(その後『TEXHNOLYZE』というのもあったが)。安倍吉俊という作家に迫ったユリイカにはぼくもインタビュアーとして参加しているので、ぜひお読みになっていただきたい。

安倍吉俊完全監修NieA_7 SCRAP (角川コミックス・エース・エクストラ)

安倍吉俊完全監修NieA_7 SCRAP (角川コミックス・エース・エクストラ)

 当時発売されたファンブック。かなり出来がよい。

NieA_7 DVD_SET

NieA_7 DVD_SET

 アニメのDVDセット。

  ユリイカ安倍吉俊特集号。