unreal arimura you - 非実在有村悠 -

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『あめのちはれ』(びっけ/エンターブレイン・B's-LOG コミックス)はジェンダーの壁を軽々と飛び越える

あめのちはれ 1 (B’s LOG Comics)

あめのちはれ 1 (B’s LOG Comics)

 ジャンルとしては、いわゆる性転換モノに属するだろうか。『らんま1/2』のごとく、主人公たちは雨に降られると女の子になってしまうのだ。

 しかも、男女別学で隣接して女子校があるため、なりゆきで女性化しているあいだは女子校のほうで過ごすことになる。ここでいくつかのほのかな恋愛フラグが立つ。葉月(女子時は月子と名乗るは寮長(シスコン)の妹・明日美としだいに親交を深めていくが、雨が降っているときは月子として接しなければならず、そっちもそっちで親しくなっていくため大変ややこしい事態に。さらに、月子のクラスメイト・桜子は明日美に懸想しており、明日美が葉月のことを好きかもしれないと相談してきたときなどは逆ギレして唇を奪ったり。そしてこの桜子、帰宅途中痴漢に襲われかけたところを空手やってる五郎丸淳太(女性時は淳子)に助けられたりして、またもや何か起こりそうな気配……うーん、錯綜する人間関係だ。

 そして、錯綜する関係のすべてが、ある程度の重さというか、背徳感を持っている。明日美は葉月と月子、さらには兄に吹き込まれた「月子と如月冬馬(女性時はマコ)」という話のあいだで煩悶。葉月は弟とあまり上手くいっていないし、クールな京都弁の眼鏡キャラ・真木悠介(女性時は悠子。彼だけ黒髪ロングの美少女になるのは絶対作者の趣味のはずだ)は故郷で振った兄の彼女をなかなか忘れることができない。左近寺円(女性時は同名)には梓という年下の“許婚”がいて、こちらも面倒な事態に。さらには、寮長が明日美に惚れかけたり、上述したように冬馬と葉月のフラグが立ちかけたりもうてんやわんやである。そして、すべてがいわゆる(ポリティカル・コレクトネス的に)ノーマルな関係ではない。同性愛。年の差。略奪愛。バザールでござーる状態だ。

 しかも、その見せ方が抜群に上手い。少女漫画特有の白コマやモノローグを多用しつつ、異常な状況下における日常的なワンシーンや、心理描写を深く掘り下げている。知人に教えてもらって手に取ったマンガだったのだが、結果として大成功だったようだ。

 こういう作家がBL方面から出てくるのは必然ともいえよう。シチュエーションと関係性、心理描写の塊のようなものだから。願わくば、もっとこういうものを読みたい。

(有村悠)

 

あめのちはれ 2 (B’s LOG Comics)

あめのちはれ 2 (B’s LOG Comics)

あめのちはれ 3 (B's-LOG COMICS)

あめのちはれ 3 (B's-LOG COMICS)

あめのちはれ 4 (B's-LOG COMICS)

あめのちはれ 4 (B's-LOG COMICS)

あめのちはれ 5 (B's-LOG COMICS)

あめのちはれ 5 (B's-LOG COMICS)

あめのちはれ 6 (B's-LOG COMICS)

あめのちはれ 6 (B's-LOG COMICS)